自治体の事業として隣の町と戦争をするという、多分近未来の日本のある町が舞台。
戦争は、物語の冒頭から始まって、ずっと進行しているが、戦闘シーンなどが描かれることはまったくなく、リアリティは感じられない。そのことに主人公も悩んでいる。
現実には、隣の自治体ではないが、どこかで戦争は行われていて、我々日本人も、少なくとも間接的には何らかのかかわりを持っている。けれども、目の前で戦闘が行われるわけではなく、家族が命を落とすわけでもないので、ニュースを見ても他人事のようにしか受け取っていない。そんな、今の我々の戦争との向き合い方を、自治体の戦争というフィクションを通して認識させられる。
そしてさらに、自衛隊の海外派遣や憲法改正を云々する以前に、すでに我々は戦争無しでは成り立たない大きなシステムの中に組み込まれているのではないか。文庫版で加えられたという最後の「別章」で、自治体の戦争事業の業務委託を受けている会社の上司と部下のやりとりがある。そこで、戦争という事業内容を知って反発する部下に対する、上司の『それでは、あなたの手は汚れていないのですか?』というセリフが印象に残った。
また、戦争以外の点でも、いくつか考えるべき問題が提示されている。
ただ、小説としては、となり町との戦争を周囲が平然と受け取っているという社会の中で、主人公だけが我々と同じ感覚で違和感を感じているという状況が、なぜなのかよくわからない。(私の読み飛ばしかもしれないが。)それと、香西さんの行動がちょっと過剰なのが気になるところだ。